改正相続法③ 遺産分割に関する改正
4 遺産分割に関する改正
多くの相続法改正と同じく,2019年7月1日に施行されます。
第1 婚姻関係20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与・遺贈で持戻し免除の推定
婚姻関係が20年を超える夫婦において,一方が他方に居住用不動産(建物or敷地)を遺贈・贈与した場合,持戻し免除の意思表示(特別受益に含めない)を推定します。
→ 当該不動産とは別に,他の財産について相続分を取得できる。
第2 預貯金の仮払い制度等
1 最高裁大法廷平成28年12月19日決定の影響
預金などの一定の可分債権も遺産分割の対象となる,と判断しました(判例変更。旧判例(最判昭和29年4月8日)は,預金は可分債権であるから,相続と同時に当然に分割され,各相続人に帰属する(→遺産分割の対象外。各相続人が単独で自己の持ち分を請求できる)という従来の判断を変更)。
そうすると,相続人全員の合意がなければ預金が引き出せないこととなり,被相続人の債務返済金や相続人の生活費,葬儀費用も出せないのでは,不都合となります。
そこで,このような不都合を回避する制度が設けられました。
2 遺産分割前の預貯金の仮払い制度等
1) 従来の保全処分の要件の厳しさ
遺産分割調停や審判の係属中に,家庭裁判所は,遺産分割の審判を本案とする仮差押え・仮処分などの保全処分を命ずることが出来ます(改正家事事件手続法200条2項)。もっとも,強制執行の保全し,又は関係人の急迫の危険防止のために必要なとき,という要件は厳しいものです。
2) 新制度:仮分割の仮処分(改正家事手続法200条3項)
ア 要件
① 家庭裁判所に遺産分割の調停・審判の係属
② 遺産に属する預貯金債権を行使する必要性(例:相続財産に属する債務の返済,相続人の生活費の支弁)
③ 他の共同相続人の利益を害しないこと
イ 効果
仮に取得できる。
3) 新制度:仮払い制度=遺産分割前の預貯金債権の行使(民法909条の2)
1)2)は調停・審判の係属と家庭裁判所の判断が必要ですが,この制度は,単独で行使できますので使い勝手の良い制度です。取得した金額は,遺産分割による取得したものとされます。
・遺産に属する預貯金債権の3分の1に,法定相続分を乗じた額まで
・標準的な当面の必要生活費,平均的な葬儀費用,その他の事情を勘案して,金融機関ごとに法務省令で定める金額が限度(金融機関毎に150万円まで)
第3 遺産分割前に財産処分した場合の遺産の範囲 (906条の2)
従来は,相続開始後に遺産が処分された場合でも,現存する遺産のみを対象に遺産分割を行うとされていました(処分された遺産については,不法行為・不当利得で別途処理)。
もっとも,共同相続人全員の合意でがあれば,処分済財産も遺産分割の対象にできる,という実務を明文化したのが民法906条の2です。
また,遺産分割前に遺産を処分したのが相続人である場合は,その者の同意は不要とされました。
第4 遺産の一部分割(907条1項)
遺産の一部のみの分割を求める調停・審判が可能になりました。例外は,被相続人が遺言で禁止した場合です。
続きは以下です
5 遺言制度の改正 ☞ 詳しく見る
5-1 自筆証書遺言の方式緩和
5-2 自筆証書の遺言書の保管制度
5-3 遺言執行者の権限の明確化
5-4 遺贈の担保責任
6 相続の効力に関する改正 ☞ 詳しく見る
6-1 権利の承継(対抗要件)
6-2 義務の承継
6-3 遺言執行者がある場合の相続人の行為等
7 遺留分制度の改正 ☞ 詳しく見る
7-1 金銭債権化 → 遺留分侵害額請求権
7-2 期間制限と支払い期限
7-3 算定方法の明確化(生前贈与,その他)
8 特別寄与料 ☞ 詳しく見る
8-1 概要
8-2 期間制限