日本マクドナルド事件(残業代請求に関係する判例:「管理監督者」該当性の判断)
平成20年1月28日東京地方裁判所民事第19部判決(一部認容、控訴後和解)
労判953号10頁、判時1998号149頁、判タ1262号221頁
(争点)労働基準法41条2号「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)の範囲と該当性
(判示要旨)
1 「管理監督者」には労働時間等に関する規定(労基法)が適用されない趣旨
1)管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され
2)賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られている
→ 労働時間等の規定の適用を除外しても、労働時間等の基本原則に反する事態が避けられ、当該労働者の保護にも欠けるところがない
2 「管理監督者」該当性の判断基準
1)名称だけでなく、実質的に、1の法の趣旨を充足する立場にあることが必要
2)具体的には、
ア)職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
イ)勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないか否か
ウ)給与及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か
などの諸点から判断すべき
3 当該事例における判断(店長が管理監督者に当たるか)・・・消極
1)店舗運営に関する重要な職責を負っているが、店舗内事項に限られ、企業経営上の必要から経営者と一体的立場において労基法の労働時間等の枠を超えて事業活動することが要請されてもやむを得ない、といえるような重要な職責と権限を付与されているとは認められない
2)労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない
3)管理監督者に対する待遇が充分とは言い難い
(解説)
「名ばかり管理職」という言葉でメディアでも度々取り上げられ、社会的注目を集めた事件であり、判例評釈も多数出ていて学会・実務界の関心も高く、本件判決後には管理監督者に関する行政通達が相次いで出されるなど、社会的影響の大きな重要事件です。
労働者のサイドに立てば、管理職、あるいは管理監督者として、社内的に扱われていたとしても、本件判決が行ったような実質的判断に従えば、管理監督者とは言えない、あるいは、労働者としての保護に欠ける、という場合には、残業代請求を始め、種々の主張が可能になる、ということです。形式的に管理職だからと言って、残業代請求をあきらめるな!ということになります。
使用者サイドに立てば、形式的・名目的に管理監督者とすることで、労働時間等の規制を潜脱することは許されず、より実態に即した労働条件の整備や待遇付与が求められる、ということです。不十分な対応をしてきた企業については、残業代請求の高まり・増加の機運に照らし、早急に社内の労務管理を整備する必要があるでしょう。