デリバティブ倒産とADR・訴訟などの動向
■結論
・銀行が2004年ころから販売したゼロコストオプションを中心とする為替デリバティブ商品での損失による倒産は,引き続き高水準であり,社会問題化している。
・上記解決の手段として,全銀協やFINMACによるADRが活用されており,その件数は大幅に増えている。
・ADRにおいて,銀行は以前より厳しい対応を取るようになっており,中小企業にとっては以前より条件が厳しくなるケースが増えている。このため,ADRから訴訟に移行したり,解決前に破たんするケースが増えている。また,訴訟を避けるため,弁護士会で再度ADRを行う例もある。
・銀行の為替デリバティブ商品被害に対する裁判所・裁判官の理解が進み始めており,以前は困難だった特定調停での解決の例が増えてきた。また,民事再生における債権カット率でも,デリバティブ損失分は通常債権よりカット率が高くなる傾向が強まっている。
・海外でも,銀行の為替デリバティブ商品による損失が訴訟等で争われている(韓国KIKO訴訟など)。
■円高倒産とデリバティブ倒産
(参考サイト)
帝国データバンク 第6回「円高関連倒産」の動向調査(2012/7/26)
・為替デリバティブ商品による倒産も続発し,社会問題化している
・2012年上期の円高関連倒産(負債1000万円以上,法的整理のみ)は51件が判明。原因は,「受注減少」の17件に次いで,「デリバティブ損失」が16件(前年比+5件。6月に7件も発生,今後も増加の見通し)。なお,2008年調査開始以降の累計では,「デリバティブ損失」が原因の1位(89件,36.6%)。
・2012年上期の主な「円高関連倒産」として挙げられた5社(負債総額10億円以上)のうち,4社が為替デリバティブ案件(負債総額が大きい順に,(1)大洋マテリアル,(3)ベリーズ,(4)オーブン,(5)ガルド・ローブ),残る1件も長期予約案件((2)エスケー食品)。
・(4)(5)はADRを利用したが,解決前に破たん
・(1)(2)(3)(4)は民事再生,(5)は自己破産。
・今後,為替デリバティブ損失による倒産が次々に発生する可能性が高い。
・ADRで和解しても,企業の損失負担があり,将来的倒産リスクは増える。
(参考サイト)
東京商工リサーチ 2012年1月-7月 「円高」関連倒産動向 2012/8/8
・1月から7月までの「円高」関連倒産は、48件(前年同期27件,+78%)
・デリバティブ損失倒産は17件(前年同期8件,+113%)と増勢が目立つ。
■為替デリバティブ損失で倒産等の事態になる前に,外国為替や銀行取引に詳しい弁護士に相談し,一刻も早く,支払い停止(決済停止)により出血を止め,ADR・特定調停・訴訟・民事再生などによる解決を図ることをお勧めします。