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交通事故後に時間を置いて発症する遅発性小腸狭窄・腸閉塞(イレウス)について

ブログでも簡単に記載しましたが(→こちら),交通事故後に遅れて発症する遅発性小腸狭窄・腸閉塞(イレウス)・腸管損傷等について,ご紹介します。

患者も医師も,事故との関係に気付きにくく,加害者の保険会社や自賠責保険・損害保険料率算出機構も,事故との因果関係を否定する可能性が高いと思われ,訴訟対応が必要になる蓋然性が高いですが,症例報告が多数上がっており,典型症例であれば,因果関係を認定される可能性が充分にあると考えられます。相談を受けた弁護士だけでなく,自賠責保険(損害保険料率算出機構)や労災認定医,裁判官などにおかれても,このような事案が多数あることを前提事実として認識の上で,事故との因果関係や後遺障害について,判断してほしいと思います。

 

症例報告例(一部)

まず,報告例(一部)を挙げます。

・石山ほか「交通外傷10日後に発症した遅発性腸閉塞に対して腹腔鏡下手術を行った1例」

・山本ほか「鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄の1例-本邦報告58例の検討を含めて-」 → こちら

・加藤ほか「鈍的腹部外傷による小腸狭窄の2例」 → こちら ※自験2例のほか,5例を紹介

・安冨ほか「鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄の1例」 → こちら  ※ 自験例の他,14症例を紹介

・斎木ほか「鈍的腹部外傷の遅発性小腸狭窄の1例」

・高橋ほか「鈍的腹部外傷に合併した遅発性小腸狭窄の1例」

・外浦ほか「内視鏡的に診断した鈍的腹部外傷による遅発性小腸狭窄の1例」

・久保ほか「腹部鈍的外傷による遅発性小腸狭窄症例に対して行った腹腔鏡補助下手術」

・冨野ほか「鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄の1例」 → こちら

・住田ほか「腹部鈍的外傷後遅発性小腸狭窄の1小児例」

・蒲原ほか「鈍的腹部外傷による小腸狭窄の1例」

・井上ほか「外傷後の遅発性小腸狭窄に対し 単孔式腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した1例」 → こちら

・山口ほか「腹部鈍的外傷による腸管損傷例の臨床病理学的検討」

・毛利ほか「鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄が疑われる1例」 ※自験例のほか50例を紹介 → こちら

・和田ほか「小腸内視鏡検査にて術前診断しえた腹部鈍的外傷後の遅発性小腸狭窄の1例」

・東ほか「腹部鈍的外傷による遅発性小腸狭窄の1例」 ※自験例以外に38例の内容の分析 → こちら

・辻ほか「鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄の2例」

・新井ほか「遅発性に門脈気腫および腸管気腫を来した鈍的外傷の1例」

荒川ほか「腹部鈍的外傷24年後に発症した遅発性小腸狭窄の1例」 ※自験例以外に42例の分析検討あり → こちら

メルク社のMSDマニュアルPRO「腹部外傷の概要」でも,鈍的腹部外傷後の数日間に突然の腹痛悪化があった患者について,遅発性の管腔臓器の穿孔等を疑うべきとしています。 → こちら

 

報告例の分析

前記報告例のうち,山本ほか「鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄の1例-本邦報告58例の検討を含めて-」 (日本腹部救急医学会雑誌33⑹:1057-1060,2013)では,報告症例1例のほか,58例について分析しており,大変参考になります

ア 58例中43例が交通事故(74%)

イ 多発部位は,回盲弁(バウヒン弁)から100cm以内(47例中24例,51%)

ウ 外傷から15日以内の発症が49例中25例(51%)だが,105日超の事例も49例3例(6%)

エ 発症から手術まで30日以内が47例中20例(43%)だが,390日超の事例も47例2例(4%)

 

400日以上経過してから手術した症例が見られた点については,「これは本症がイレウス症状を繰り返すためと思われた」とも述べられています。

発症部位については,Bauhin弁(回盲弁)から100cm以内が最も多く,次にTreitz靭帯から200cm以内(特に100cm~200cm)が多発部位です。

遅発性小腸狭窄の多発部位

(図2の引用元は前記サイト)

 

Bauhin弁(回盲弁)手前が最多となる理由は以下が考えられます。

A 結節部は構造的に減速度・加速度による剪断力が加わりやすく,損傷を受けやすい
B 構造と弁の存在から,内容物の通過抵抗が大きく,癒着や屈曲の影響を受けやすい
C 血流供給が悪化しやすい(腸間膜動脈の末端・最下部。静脈も停滞しやすい)

Treitz靭帯から200cm以内が多いが,~100cmより100~200cmが多い理由は以下が考えられます。

A 靭帯固定部の付近は構造的に減速度・加速度による剪断力が加わりやすく,損傷を受けやすい
B 100~200cmの方が,腸間膜が長く可動性が高い
C ~100cmの方が上部であり,血流供給が悪化しにくく,静脈も停滞しにくい

遅発性小腸狭窄の発症・手術期間

(図3・4の引用元も前記サイト)

以上に紹介した紹介症例や分析結果との整合性が高ければ,より,因果関係を立証しやすいと考えられます。前掲の報告例の中には,様々な症状や経過があり,共通性を指摘することも有用と考えます。白血球数(WBC)やCRP(炎症反応)の異常値が出る例も少なくありません。

 

他方,30日以内の発症,発症から60日以内の手術が大半であるものの,105日を超えて発症した例,発症から390日以降に手術した例もあり,遅発性の程度は様々です。

受傷から約24年経過して発症,その6年後に手術した事例報告もあります

 

事故約24年後に発症,約30年後(発症約6年後)に手術した事案

・荒川ほか(美濃市立美濃病院外科)「腹部鈍的外傷24年後に発症した遅発性小腸狭窄の1例」 → こちら

この報告では,自験例の他に,42例を分析して表にもまとめていますが,特筆すべきは,自験例において,事故約24年後に小腸狭窄を発症し,その約6年後(事故約30年後)に再発して手術に至っていることです。

・20歳時,作業時に機械に腹部を挟まれ経過観察入院,安静にて軽快,1週間後に退院

・44歳時,原因不明のイレウスにて計5回入院,保存療法にて軽快

・50歳時,手術(癒着解除術,狭窄部位を含む約6cmの小腸部分切除術,虫垂切除術)

A 血液検査所見・・・白血球・CRPで軽度の炎症反応

B レントゲン・・・小腸ガスによる腸管拡張

C CT・・・小腸狭窄,狭窄部口側の腸管拡張

D 手術所見

a 機械で挟まれた部位に腹壁と大網・小腸間膜の癒着

b バウヒン弁から約200cm口側の小腸癒着,腸管狭窄,腸間膜の短縮

c 上記部位の腸間膜に背側から虫垂が引き込まれるように癒着

E 癒着解除術,小腸部分切除術,虫垂切除術

 

43歳時に胃アニサキス症を発症しているが,腸アニサキス症ではなく,そこから6年経過していることや,部位が受傷部位だったことから,原因は20歳時の腹部鈍的外傷と考えられるが,胃アニサキス症に伴う腹腔内炎による増悪の可能性も否定できないとしている。

遅発性小腸狭窄の原因については,①壁内血腫,②炎症性癒着,③循環障害による腸管の瘢痕製収縮,④腸管の直接損傷などが考えられるが,本邦では腸間膜損傷に伴う③が多いとされ,狭窄が完成するまでに時間が掛かることが本疾患が遅発性となる一因と考えられる,と述べている。

同報告における自験例では,術中所見で外傷部位に一致した腹膜と大網の癒着および腸間膜の短縮を,また,病理検査で固有筋層の線維化・菲薄化を認めたことから,①~④の原因が複合的に狭窄を形成したと判断している。

 

まとめ

交通事故を中心とする腹部鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄・腸閉塞(イレウス)は,かなりの数が報告されており,徐々に医学的知見も広がっていると思われる。もっとも,患者も医師も外傷が原因だとは気付きにくく,啓蒙段階にあると考えられる。

遅発性に小腸狭窄等を生じた事例においては,加害者から因果関係を否定される場合も多いと思われるが,ここに紹介した事例を参考に,適切に因果関係を判断することが重要だと考えられる

 

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