5号有責配偶者からの離婚請求を棄却した判決文
※このページの作成者、及び判決事案の担当者は弁護士重次直樹(☞こちら、大阪弁護士会所属)です。
当事務所の弁護士が,離婚訴訟で請求棄却・控訴棄却の勝訴判決を得た高裁判例の判決文(ルールの部分)を紹介します。
目次
高裁の判決文で,規範(ルール)を述べた部分
「民法770条1項5号所定の事由(註:婚姻を継続しがたい重大な事由)による離婚請求がその事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者(有責配偶者)からされた場合において,当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては,有責配偶者の責任の態様・程度,相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情,離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・経済的状態,夫婦間の子,殊に未成熟の子の監護・教育・福社の状況,別居後に形成された生活関係等が考慮されなければならず,更には,時の経過とともに,これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合って変容し,また,これらの諸事情の持つ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから,時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないものというべきである。」
「そうだとすると,有責配偶者からされた離婚請求については,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか否か,②その間に未成熟の子が存在するか否か,③相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存するか否か等の諸点を総合的に考慮して,当該請求が信義誠実の原則に反するといえないときには,当該請求を認容することができると解するのが相当である(最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁参照)。」
上記は,有責配偶者からの離婚請求に関する嚆矢となった,最高裁昭和62年9月2日判決を引用しています。もっとも,言い回しとしては,最高裁平成16年11月18日判決の言い方を採用しています。
要件事実上の構造
専門的になりますが,上記判決文を素直に読めば,要件事実としては,以下のタイプ2かタイプ3の考え方と思われます。
タイプ1(最判昭62.9.2の文言に忠実,新版注釈民放,大江忠ほか)
請求原因(離婚事由) → 有責配偶者の抗弁 → ①別居期間,②未成熟子不存在の再抗弁 → ③相手方が苛酷な状況に置かれる「特段の事情」の再々抗弁
赤:原告が主張立証, 青:被告が主張立証
タイプ2(「信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては」の文言重視,岡口基一ほか)
請求原因(離婚事由) → 有責配偶者の抗弁=信義則違反(①別居期間,②未成熟子の再抗弁,③相「特段の事情」がないこと,などをを総合考慮)の評価根拠事実 → 信義則違反の評価障害事実
最高裁平成16年11月18日判決や,本判決等の文言のうち,「当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては」の文言を重視すれば,このように理解できると思います。
タイプ3(「信義誠実の原則に反するといえないときには」の文言重視)
請求原因(離婚事由) → 有責配偶者の抗弁(離婚事由につき専ら又は主として責任がある) → 信義則違反といえないことの評価根拠事実(①別居期間,②未成熟子不存在,③相手方が苛酷な状況に置かれる「特段の事情」の有無等を考慮) → 信義則違反といえないことの評価障害事実
最高裁平成16年11月18日判決や,本判決等の文言のうち,「当該請求が信義誠実の原則に反すると★いえないとき★には」の文言を重視すれば,このように理解できると思います。