弁護士への懲戒請求の概要
多くの弁護士は信頼できると言って良いと思いますが、中にはひどい弁護士もいます。
そのような時には、
1 他の弁護士に相談する
2 弁護士会の市民窓口に相談する
3 弁護士会での紛議調停
4 弁護士会への懲戒請求
5 裁判所における調停や訴訟
6 刑事告訴
などの対応方法があります。
1の他の弁護士への相談ですが、弁護士は会務や同業内の様々な関係から、身内とも言える同業の非行に関しては、なかなか受任しにくい傾向があります。しかし、悪質なケースについては、委任を受ける場合もあるでしょう。また、事件を受任、継続する必要から、やむを得ず、非行を行った同業者との交渉等についても付随的に引き受ける場合もあるでしょう。
当該弁護士と交渉してもダメな場合には、いきなり裁判所を利用するよりも、弁護士会の市民窓口や紛議調停を使うことが一般です。弁護士には紛争を極力、紛議調停で解決する義務があります。非行を行った弁護士への損害賠償など、民事関係については、懲戒請求ではなく、紛議調停を利用することになります。
2以降の弁護士会に行く場合には、まず、市民窓口(市民に関する相談窓口)で相談し、紛議調停や懲戒請求の手続きについても確認しておくのが一般的です。
損害賠償などの民事関係については、紛議調停を用いるのですが、非行を行った弁護士への処分を求める場合には、懲戒請求をすることになります。
濫用的な懲戒請求に対しては、逆に損害賠償請求などを行われて、反撃される例も珍しくありません。現在でも、大阪地方裁判所だけで、複数の損害賠償請求事件が係属していると聞いています。懲戒請求は相手方弁護士への重大なダメージになり得る手続きですから(橋下徹弁護士も懲戒請求を煽ったことで逆に自らが業務停止という重い懲戒処分を受けています)、安易な懲戒請求は控えるべきでしょう。
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平成25年の数字を見てみましょう。
懲戒請求の新受件数は3347件です。
懲戒処分は98件が行われ、うち61件が戒告(62%)、業務停止が29件(30%)、退会命令が6件(6%)、除名が2件(2%)です。
懲戒不相当とされた件数は、4432件です。
終了件数は、処分(98)、不処分(4432)、却下・終了(33)の合計4563件です。
98/4563=2.15%
平成25年の処分比率は全体の2%余です。ただし、平成24年、25年は特殊案件で件数が膨らんでいますから、特殊要因を除くと、おおよそ100/1800=5~6%、といった数字が、実質的な処分確率と思われます。
懲戒の議決がされる前に、懲戒委員会の審査開始があります。多くの事案では、懲戒委員会による審査さえされません。綱紀委員会による事案の調査のみで、懲戒委員会による審査を求めないまま終了します。
懲戒委員会による審査開始件数は平成25年で177件です。
年度を跨ぐ事件もありますが、単純に、処分件数/審査開始件数を平成25年の数字で見ると、
98/177=55.4%
となります。・・・つまり、懲戒委員会が審査を開始した事案では、半数強が懲戒処分に至っています。この比率は、ここ20年間、おおむね一定しており、50~60%で推移しています(大きく離れた例外は、平成15年の83%、平成7年の78%です)。
懲戒請求は、何人でも行うことができます(弁護士法58条1項)。
弁護士会は、懲戒請求があったとき(又は自ら懲戒の事由があると思料するとき)は、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせます(弁護士法58条2項)。
綱紀委員会は、上記の調査により、対象弁護士等について、懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認めるときは、その旨を議決して、懲戒委員会に事案の審査を求めます(弁護士法58条3項)。
このような手続きにより(※)、懲戒委員会で審査を開始した件数が、先ほどの平成25年の177件であり、懲戒委員会で審査が開始された場合には、おおよそ50~60%の比率で、懲戒処分が下されてます。
※正確には、一旦、綱紀委員会が事案の審査を懲戒委員会に求めない、と議決した後、日弁連綱紀委員会への異議申出がなされ、同委員会が審査相当としたケースなども含まれます。もっとも、異議申出により審査相当とされた件数は、過去5年は年1桁です。
詳しい手続きの流れは、 → 弁護士の懲戒手続の流れ(日弁連サイト)
過去5年間の懲戒請求の件数と、懲戒処分の件数を、下記に列記します。
(年) (新受件数) (懲戒委員会審査開始件数) (懲戒件数)
平成21年 1402 132 76
平成22年 1849 132 80
平成23年 1885 137 80
平成24年 3898 134 79
平成25年 3347 177 98
また、平成5年以降の懲戒件数を列記します。増加傾向にあります。
平成5年~10年 23、25、39、27、38、43
平成11年~15年 52,41,62,66,59
平成16年~20年 49,62,69,70,60
平成21年~25年 76,80,80,79,98
平成25年は何とか100件未満に収まりましたが、いずれ、年100件を超えることは、確実と思われます。
懲戒については、弁護士法56条以下に規定があります。
56条1項(懲戒事由)
・弁護士法違反
・所属弁護士会又は日弁連の会則違反
・所属弁護士会の秩序又は信用を害したこと
・その他職務の内外を問わずそお品位を失うべき非行があったこと
56条2項(懲戒者) ・・・ 所属弁護士会
懲戒の種類(57条1項)
・戒告(反省を求め、戒める処分)
・業務停止(弁護士業務を行うことを禁止する処分。2年以内)
・退会命令(弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動はできなくなるが、弁護士となる資格は失わない処分)
・除名(弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動が出来なくなり、弁護士となる資格も失わせる処分)
除斥期間(3年)
懲戒の事由があったときから3年を経過したときは、懲戒の手続きを開始することが出来なくなります(弁護士法63条)。これについては、短すぎるとの批判があります。
懲戒請求の件数はおおむね1000件台で推移しましたが、平成24年、25年は4000件近くに及び、特殊要因があったことを窺わせます。
なお、最も請求件数が多かったのは平成19年(2007年)の9585件です。これは、1つの刑事事件の弁護団に対する請求だけで8095件もあったためで、同弁護団を除くと、約1491件とされてます(東京法曹会、「懲戒事例研究」3頁 → こちら )。
同弁護団への懲戒請求を煽ったとして、マスコミに登場する著名弁護士が厳しい処分を受けています(業務停止処分)。
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同業者としては、弁護士業界の疲弊に伴い、預り金横領事件が毎年のように報道される昨今、これ以上、業界の信用を落としたくない、懲戒事件の増加は好ましくない、という気持ちが強くあります。
他方、業務経験を重ねる中で、とんでもない弁護士がいることも知りました。非行弁護士に相応の処分をせず放置すれば、弁護士、弁護士会や業界への信用は、低下します。
非行弁護士に対しては、極力、柔らかい手段での対応をまず試み、改善が見られなかったり、保身や責任回避、責任転嫁に動くようであれば、厳しい手続きを取ることも止むを得ないと考えています。