事業場外労働のみなし労働時間・・・営業職の残業代請求
残業代請求が認められない例として、労働基準法38条の2(事業場外労働)、38条の3(専門業務型裁量労働制)、38条の4(企画業務型裁量労働制)の3つの「みなし労働時間制」を挙げることができます。
このうち、事業場外労働について、労基法38条の2本文は、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」と規定します。従って、この要件を満たす場合には、原則として、実際の労働時間にかかわらず、所定労働時間労働したものとされます。
このため、営業職の従業員からの残業代請求に対して、使用者側がこの制度を抗弁として主張することは良くあります。
しかし、裁判での認定は厳格であり、営業職等、事業場外で業務に従事しているだけでは、認定されません。
1 「使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難」
行政通達においても、「事業場外みなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であり、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はない」としています(63.1.1基発一)。
また、判例においても、みなし規定の適用を否定した例は多くあります。例を挙げると、展示販売場でのプロモーター社員について業務の時間・場所が限定されており労働時間の算定が困難とはいえないとした東京地判平成22年5月11日(ほるぷ事件)、外勤営業社員について、毎朝の朝礼に出席し、予定表を会社に提出し、携帯電話を持たせていた等の事情により、労働時間の算定が困難とはいえないとした大阪地判平成14年7月19日(光和商事事件)、ツアーコンダクター(旅行添乗員)について労働時間の算定が困難とはいえないとした例(阪急トラベル事件など多数)などがあります。「労働時間の算定が困難」という要件については、労働時間によって賃金を支払う原則に対する例外となるため、相当に厳格な認定がされていると言えるでしょう。
2 「通常必要とされる時間」
加えて、労基法38条の2にはただし書があります。つまり、当該業務を遂行するためには、通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、その「通常必要とされる時間」労働したものとみなされます。
3 対応
使用者側においては、「使用者の指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務」が実質的に判断され、裁判では相当に厳しい認定がなされていること、「通常必要とされる時間」労働したものとみなす、というただし書があること、を理解した上で労務管理を行う必要があり、判例の事例を検討した上で、労務管理に詳しい弁護士に相談すると良いでしょう。
また、労働者側においては、上記を法規制を踏まえて、時間外労働に対する賃金を請求するか否かを判断する必要があり、資料収集を含めて弁護士に相談すると良いでしょう。