後遺症・後遺障害と等級認定
目次
【目次】
第1 後遺症・後遺障害とは
1 後遺症・後遺障害の意味
2 症状固定とは
3 後遺障害の等級認定
第2 後遺障害の種類
1 35系列
2 35系列の前提となる3つの分類
1) 器質的障害,機能的障害,両方にまたがる障害
2) 部位による分類
3) 左右の区分
第1 後遺症・後遺障害とは
1 後遺症・後遺障害の意味
交通事故・労災事故などで受傷した場合,まず治療を尽くすことになります。
しかし,適切な治療を尽くしても,完全に治らず,将来にわたり症状・障害が残存する場合もあります。
このように,治療をしても治らず,残ってしまう症状・障害のことを,後遺症・後遺障害と言います。
2 症状固定とは
ここで重要なのが,症状固定という概念です。症状固定とは,治療やリハビリを継続した結果,それ以上,医学上一般に承認された治療方法を用いても,改善効果が期待できなくなった状態をいいます。
症状固定の前後で,原則として取得できる賠償項目が異なるため,損害賠償の実務においては,非常に重要な概念になります。
なお,労災では,症状固定のことを「治ゆ」と言います。「なおったとき」という言い方をする場合もあります。日常用語と異なり,完治して正常になった,という意味ではなく,これ以上の治療には効果がない,とされる状態を言います(症状固定と同じ)。
3 後遺障害の等級認定
後遺障害の等級認定は,交通事故では自賠責保険の制度により損害保険料率算出機構(自賠責調査事務所)が,労災では労働基準監督署が,それぞれ行います。
交通事故の後遺障害の等級認定は,原則として,労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うこととされています(自動車損害賠償保障法第16条の3,自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準=いわゆる「支払基準」)。
第2 後遺障害の種類
1 35系列
交通事故・労災ともに,同種の分類が用いられ,総計35の系列があります(下表)。どの系列にも属さない分類外の特殊な後遺障害もあります(嗅覚・味覚脱失,血流障害など)。
2 35系列の前提となる3つの分類
1) 器質的障害,機能的障害,両方にまたがる障害
2) 部位による分類
3) 左右の区分
1)器質的障害と機能的障害,両方にまたがる障害
器質的障害
①欠損障害,②変形障害,③短縮障害,④醜状障害,⑤歯牙障害,があります。
5種類の内容が示す通り,身体器官が従前の形状を維持していない場合の障害です。機能的障害と異なり,労働能力喪失が見られない,という主張が,主に保険会社から行われることが多いですが,器質的障害についても,精神的苦痛ではなく,労働能力の喪失率に着目して,等級が定められています(平成22年11月「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会報告書」3頁「労災保険法は事業主の災害補償責任を担保する補償制度であり,その性格に鑑みれば,外ぼう障害の評価について,稼得能力(労働能力)の喪失の程度に応じて評価を行う必要があり,外ぼう障害による精神的苦痛の大小により障害等級の評価を行うことは妥当ではない」)
機能的障害
①機能障害,②運動障害,③視力障害,④調整機能障害(眼),⑤視野障害,⑥聴力障害。⑥そしゃく及び言語機能障害,があります。
内容が示す通り,身体各器官の機能低下の障害です。
器質的障害・機能的障害の両方にまたがるもの
①鼻の欠損及び機能障害,②神経系統の機能又は精神の障害,③腹部臓器の障害,があります。
2)部位による分類
前記表の10部位に分類されています。
10部位とは,①眼,②耳,③鼻,④口,⑤神経系統の機能又は精神,⑥頭部,顔面,頸部(醜状障害のみ),⑦胸腹部臓器(外生殖器を含む),⑧体幹,⑨上肢,⑩下肢,の10部位です。
3)左右の区分
まぶた,耳かく(耳介),上肢(手指を含む),下肢(足指を含む)については,左右それぞれが別系列として評価されます。