民事執行における「子の引渡し」 (民事法研究会)
子の引渡しに関しては,民事執行における「子の引渡し」(杉山初江著,園尾隆司監修,民事法研究会,平成22年3月8日第一刷発行,3200円(税別))という本が参考になります。
(当事務所の蔵書は,弁護士が全ページを精読し,強制執行の当日も小雨が降る中読み返していたため,上記写真の通り傷んでいます)
弁護士で案件をお持ちの方は,緊急性ある案件で時間が限られますから,3章から読み始めることをお勧めします。
私自身,この本を読み,強制執行の当日,現場で執行官に対して警察への援助要請を強く働きかけました。警察官が多数駆けつけて相手方を取り囲んでいなければ,物理的な激しい抵抗にあって執行に成功しなかったかもしれません。
執行官は独立かつ独任制の執行機関です。執行事件の処理に関しては,原則として執行裁判所の直接の指揮を受けることなく,自己の判断と責任において権限を行使することが認められています。
・・・そういった基本事項も含めて,子の引渡しに関して一通りの法的知識を得るには,必須の一冊だと思います。
——-
【地域ごとの運用の差】
地域ごとの運用の差も,この本には詳しく記されており,興味深く読みました。
子の引渡しについて直接強制は適切でなく直接強制による強制執行は出来ない,という裁判所の判断があることについては,以前にブログ記事でも紹介しました(札幌地裁平成6年7月8日決定,判タ851号299頁)。
この判決の影響もあり,札幌高裁管轄では,この本が書かれた時点では数年間にわたり,子の引渡しの強制執行の申立てがなかったそうです(206頁)。
これは,子に対する直接強制は許すべきでない,との考え方から,申立て段階で申立てをしないように説得し,それでも申立てをするのであれば,却下することを事前に説明するために,窓口に来ても,実際に申立てはされなかった,という経緯だそうです。
なお,札幌高裁管轄でも,その後,子の引渡しの直接強制を行うようになっています。
他方,大阪高裁管轄のある庁では,下記のような徹底した強制執行を行い,引渡しを実現しています(206~207頁)。
・年10件近い申立てがあり,全て警察官の援助を要請し,解錠技術者も用意して施錠されていても解錠し,ほぼ全件で引渡しに成功している。
・監護親が抱きかかえていても,引き離してでも執行しているようだ。
・説得にも時間をかけるし,いなければ待ってでも行う。
札幌地裁の前記決定に見られる,直接強制をすべきでない,との考え方については,逆の立場(間接強制の方が酷であり,直接強制によるべき,との立場)からの批判もあります(69頁)。
・執行官が家に来て,取り上げて行ったのであれば,諦めが付くし,後で子供にも説明がつく。少なくとも,間接強制により圧力を加えられ,お金が欲しくて(惜しくて)子を手放した,というよりも子供を傷つけずに済む
・子の引渡しについては,金銭賠償により強制することは,債務者の人格を著しく傷つけると思えてならない(梶村太市氏(元裁判官)の意見,「この引渡請求の裁判管轄と執行方法」より)。
著者である杉山初江氏も,梶村元判事と同意見であり,間接強制より直接強制が良いと判断しています(278頁)。
そして,子の引渡しの直接強制を確実にする立法の必要性を訴えています。