子の引渡し(審判前の保全処分)直接強制の成功について
子の引渡しの強制執行(直接強制)に成功しましたので,ご報告いたします。(報告者:弁護士重次直樹=案件担当者。なお,強制執行の申立書の起案は弁護士坂本昌史による)
今回の事案は,仮処分に基づく直接強制です。
最高裁の調査によれば,裁判所の執行官が子供を一方の親に引き渡す直接強制は,2010年,全国で120件行われ,このうち58件(48%)で成功しているそうです。子の奪い合いの案件は難易度が高いと言われていますが,実際に直接強制が成功した数は,年間58件(2010年)という少数です。このうち,仮処分に基づく直接強制は,執行期間が2週間しか認められず,大変,難しいと言われています。
子の引渡しの直接強制には,本案(審判)によるものと,仮処分(審判前の保全処分)によるものがあります。今回,当事務所で成功した引渡しの直接強制は仮処分に基づく強制執行で,執行可能期間は2週間しかありませんでした。
しかし,執行が遅れて,子供が母親と離れた新しい環境になじんでしまうと,取戻しが難しくなる場合があります(監護について裁判所は現状維持を重視する傾向があります)。このため,本案を待たず,仮処分に基づき強制執行を行う必要性が高い事案でした。
(参考条文)家事事件手続法第109条第3項第1文 審判前の保全処分の執行及び効力は、民事保全法 その他の仮差押え及び仮処分の執行及び効力に関する法令の規定に従う。 民事保全法第43条第2項 保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から二週間を経過したときは、これをしてはならない。
今回は,子供のため,また母親のため,どんなに苦しくても,出来ることを全てやる,という家族および弁護士の執念と,執行官,警察官の粘り強い対応,により,何とか,成功にこぎつけました。執行官は警察官の出動を要請し,夜間執行の許可も裁判所から取り付けました(午後1時半ころ執行に着手しましたが,日没が近づいていました)。警察官はパトカー3台で現地に駆け付け,相手方を説得しつつ毅然とした態度を取り,強制執行が成功するよう,各種の便宜を図りました。
何より,子供のことを最優先に考え,母を最も慕い母と一緒にいたいという子供の気持ちを絶対に裏切らない,取り戻しを絶対に諦めない,という母親自身の強い気持ちが,今回の成功を導いたものだと思います。
執行開始から引渡しまでの所要時間は3時間を超えました(大阪からの往復時間を含めると約9時間かかりました)。パトカー3台,制服警察官5,6名,私服警察官2名,開錠技術者,その他の関係者などが集結する事態となりました。
私は,午後1時半ころ始まった執行が翌朝までかかっても,今回は絶対に子供を取り戻す,という不退転の気持ちで臨みました。大阪から通常で片道2時間半かかり(前回(不在又は居留守により失敗)は高速道路の工事で一般道を使ったため片道3時間半かかりました),執行の負担が重く,また,詐術・脅迫などによって母親が子供と引き離されてから4ヶ月以上経っており,クリスマス,年末,お正月まで子供と離れて過ごすとなると,母親の精神状態が限界を超えて,不測の事故,事態が生じかねない状態でした。(子供と引き離された親が精神科にかかる状態になることは少なくなく,自傷行為や自殺に及ぶ例さえあります)
仮処分の審判書正本が事務所に到達したその日に,予め坂本昌史弁護士が用意していた直接強制の申立書を速達で発送しました。翌日,2通目の正本が到達すると,同様に事前準備をしていた間接強制の申立書を速達で発送しました。直接強制の申立が受理されて担当執行官が決まった連絡が入ると直ちに日程を調整し,翌営業日には1回目の強制執行を行いました(到達4営業日目=6日目)。正本到達から2週間の間に,申立書を発送し,受理後に選任された執行官と連絡を取り,執行官・弁護士・依頼者・家族の日程を合わせながら成功する保証のない直接強制を遠隔地で何度も行うことは,大変苦しく,また難しいことでした。その間,調査官による家庭訪問への対応,立会いで,大阪を離れられない日もありました。
母親本人は,今回,寒い中を3時間以上,屋外で立会いました。往路は運転もしました。これまでも,調停審判期日のたび,片道2時間から3時間半も運転し,相手方が子供を実家に移した際には,子供を迎えに相手方実家まで約900kmも運転しました。
母親の子供に対する気持ち,思いが,最後まで強く維持され,かつ,実際の具体的な行動に移されたことが,今回の成功における不可欠の前提だったと思います。
帰りの車の中で,子供が母の膝で遊び,やがてその胸に抱かれて眠りについた様子を見て,本当に良かったと感じました。
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今回の仮処分に基づく子の引渡しの強制執行は,上記の通り,難易度も緊急性も重要性も高い案件であり,かなりの集中力と優先順位で行いました。
他の案件の中には,その分,迅速な対応が出来なかったものがあり,来週以降,集中して処理致します。
各弁護士が複数(多数)の案件を担当しておりますが,その優先順位については,重要性,緊急性等を勘案して行っています。今回,私(重次直樹)が担当している他の案件で迅速に出来ていないものについては,来週以降,集中して処理しますので,何卒,ご容赦いただきたく,宜しくお願い申し上げます。