子供の引渡し事件と日本裁判官ネットワーク企画
子供の引渡し関係の事件(※)を担当していることもあり,25.11.9(土),大阪駅前第2ビルで行われた日本裁判官ネットワーク・秋の企画に参加してきました(代表弁護士 重次直樹)。
→ 企画内容
————-※子供の引渡し事件——————-
子供の引渡し事件にはいくつかの類型がありますが,離婚前の子供の引渡し事件では,通常,次の3つの事件が家庭裁判所に同時に係属します。
1)監護権者指定審判申立事件
2)子の引渡し審判申立事件
3)審判前の保全処分申立事件
1)2)が審判の本案です。3)が仮処分です。
2)が目的ですが,前提として監護権を得るため1)が必要です。
3)は早期に仮の対応を求めるものです。
子の引渡し事件の場合,仮処分の本案化,と言われる事象が起こりやすく,一般的な仮処分事件より時間がかかる傾向にあります。これは,仮処分の内容と本案の内容が異なる場合,子供を再度引渡す必要が生じて,子供の福利にマイナスとなるためです。
離婚前に子の引渡しが争いとなる場合,夫婦関係が悪化して別居していることが通常です。そこで,上記1)2)3)のほか,例えば次のように,更に2つの事件も係属するのが通常です。
4)夫婦関係調整申立事件
5)婚姻費用分担申立事件
そこで,準備書面の頭書部分には,次のように事件番号が5つ並ぶこともあります。
平成25年(家イ)第○○○○号 夫婦関係調整申立事件
平成25年(家イ)第○○○○号 婚姻費用分担申立事件
平成25年(家)第○○○○号 監護権者指定審判申立事件
平成25年(家)第○○○○号 子の引渡し審判申立事件
平成25年(家ロ)第○○○○号 審判前の保全処分申立事件
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日本裁判官ネットワークの企画に話を戻します。
概要は下記でした。
日時:平成25年11月9日(土)13時から17時まで
会場:「大阪市立大学文化交流センター」ホール…大阪駅前第2ビル(6階)
1 記念講演(13時~) 金馬健二(元高松高裁部総括・27期)退官記念講演
2 パネルディスカッション(14時半~17時)
(1) 金馬元裁判官の基調報告
(2) パネラーによるディスカッション
・金馬元裁判官(現弁護士)
・山口芳子裁判官・・・大阪高裁
・間部泰裁判官・・・宇都宮家裁
・安元義博弁護士・・・大阪弁護士会所属
・市来竜哉調査官・・・横浜家裁
【内容】
ア 家事事件手続法施行後の運用の変化
離婚・婚費・親権・養育費など家事調停の運用はどう変わったか
a 手続の透明化
b IT化(電話会議・テレビ会議)
c 調停委員会の評議
d 調停員会による調停案の提示,調停に代わる審判など
イ 子の親権,面会交流,引渡し事件の調停・審判のあり方
a 家裁調査官,代理人弁護士らよる試行的面会の実情
b 子の意思の確認(新法65条)と調停・審判への反映方法
c 子の手続代理人(新法23条)
d 面会交流の必要性とその根拠
3 懇親会
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関心の高い分野のようでした。
家事事件のうち別表第1事件(旧甲類,職権的運用,→裁判所HP)では,後見事件が激増しているそうです。また,後見人による横領等の事件が増加しており,近時は専門後見人による不正も少なくないようです。これらの問題点への対応も含めて,下記のような立法措置が必要だという問題提起がありました。
・後見人の解任と,解任までの仮執行
・身上監護についての専門後見人を確保できる体制
・後見監督人への報酬を強制できる制度
高齢化社会の急速な進展があり,現場の声を受けた改革が望まれます。
特に,日本では司法予算は先進諸外国に比べて異常に少なく(国家予算の0.3%),法の実現のためには,法科大学院など大学の利権に予算を使うよりも,実際の司法サービスに予算を使うべきだと感じました。混迷する法科大学院に多額の予算を配分するお金があるなら,他にもっと有意義な司法サービスへの資金使途がいくらでもあると感じます。
別表第2事件(旧乙類,当事者性が高い)では,ハーグ条約や少子化の影響もあり,子供の引渡しや面会交流の事件が激増しているようです。
この分野については,一般の関心が非常に強いようです。
今回の企画では,裁判官や調査官,調停委員などの裁判所職員だけでなく,弁護士や一般の参加も認められていました。私を含めて実際に事件を担当し,悩み,葛藤する弁護士も多数参加してました。
また,一般の方の関心も高く,参加も多かったように思います。特に,父親側の参加が目立ち,面会交流などについて父親側に不満が大きいことが感じられました。
月1回2時間の面会交流しか認められない中で子供への対応に苦悩する父親,父親に監護権が認められたのに母親が子供を連れ去って行方不明となって苦悩する父親,共同親権運動ネットワークのメンバーなどの参加がありました。
監護権,面会交流について,現在までの裁判所の運用では,父親側に強い不満があるようです。
「弁護士と闘う」というサイトを運営されている方も参加されていました。面会交流について父親側の権利への配慮の不充分さについて問題意識があるようです。その点は,同サイトでも感じられますし,本日もそのような趣旨の発言がありました。
他方,真正DV被害の場合,精神的な虐待がある場合など,面会交流を強制すること自体が児童虐待になるのでは,という視点もあり,運用は難しいようです。
また,多くの場合に親権者となる母親側の不満として,代弁者となる弁護士からは,養育費の算定基準が低すぎる,増額改定すべきではないか,という問題提起がありました。
日本の離婚の実態や裁判実務の運用について,下記の批判,不満,問題意識は,かなり一般的に感じられているようです。
・父親の面会交流が充分に確保されていない
・母親が受け取る養育費が,余りにも低額で不十分,算定表は増額すべき
私もそのように感じます。
面会については,法律事務所内の和室の休憩室で実施する例や,大都市部を中心にエフピック(FPIC)を活用する事例などが紹介されました。
→ FPIC大阪
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今回の企画は,当日の午前にネットで気づきました。
前日(当日)は午前1時半頃までホームページの修正や情報アップをしており,午前4時過ぎまでレターケース等の片付けをしていたなど寝不足気味でした。また,水曜日は午前3時半まで貿易絡みの事件の準備書面を書いており,かなり疲れがたまっていました。
しかし,家事事件手続法が平成25年1月1日から施行されて,裁判所も弁護士も調査官・調停委員・書記官なども試行錯誤の運用をしていること,現在,引渡し事件を実際に受任して担当していることから,少し無理をして参加して来ました。意義はあったと思います。
今回の企画に参加して得た知識,人脈,また体感したことなどを,今後の実務に活かして行きたいと思います。
(代表弁護士 重次直樹)